憲法と教育を守る愛知の会 「愛知県立高等学校の再編作業に対する私たちの見解」を発表

憲法と教育を守る愛知の会

「愛知県立高等学校の再編作業に対する私たちの見解」を発表

愛高教も参加している「憲法の理念を生かし、子どもと教育を守る愛知の会(憲法と教育を守る愛知の会)」は、10月3日、愛知県教育委員会が強引に推しすすめている愛知県立高校の再編作業について、以下の見解を発表しました。

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以下全文を紹介します。

2022年10月3日

愛知県立高等学校の再編作業に対する私たちの見解

        憲法の理念を生かし、子どもと教育を守る愛知の会
(憲法と教育を守る愛知の会)
共同代表  榊 達雄(名古屋大学名誉教授)
小林 武(沖縄大学客員教授)

1 この間の経緯
愛知県教育委員会は、2021年11月8日に突然、「県立高等学校再編将来構想」案を発表しました。この「構想」案については1か月ほどのパブリックコメントの受付期間を経て、12月22日に正式決定されました。
「構想」では21年度の公立高校入試での2600名を超える過去最多の欠員や、中学卒業者数が、今の約7万人から、2035年度には1万3千人減少して、5万7千人程度になることを策定の理由にあげています。「再編」の具体としては3点(「再編・統合」「新たなタイプの学校の設置」「商業教育のリニューアル」)が目をひきました。こうした作業を2035年度まで繰り返し実施するとしています。
本会は1月より「子どもたちの学びを保障するため 県立高校の「学校統廃合」「学科改編」の撤回を求める署名」に愛知県高等学校教職員組合(愛高教)などと共にとりくみ、3月23日に約5000筆を愛知県教育委員会に提出しました。また、統廃合の関係3 自治体(一宮、稲沢、弥富)の3月議会において、県に対して「意見書」を採択するようにとりくみもすすめ、一宮市では継続審議の扱いとなっています。
11月の「構想」案の発表は、愛高教など現場の教職員にまったく知らされることなく行われました。統合対象校で現に学び、働いている生徒、教職員の声を聞くことなく「廃校」を含む統廃合計画を上から押し付けることはあってはならないことでした。3月に提出した署名は「とにかく私たちの声を聞いて」という生徒の声を代弁するものとしてとりくまれました。
年度が替わった4月6日、県教委は突然「併設型中高一貫教育制度」の導入を検討すると発表しました。前年の「構想」では十分に触れられていたとは言えない新たな論点の投入でした。また、4月26日には「第1回県立高等学校再編将来構想具体化検討委員会」が招集され、「中高一貫」も含む論点の具体化を図ることとなりました。この委員会には、現場代表の教員(小、中、高の教諭)も参加することとなり、現場の声を一定反映させられる場が作られることとなりました。「具体化検討委員会」には「中高一貫教育導入検討部会」と「新しい時代に対応した定時制・通信制教育の在り方検討部会」が設置され、いずれも複数回の会議が行われ審議が続いています。
本会は、現在審議されている「構想」の「具体化」が愛知の高校教育に少なくない影響を及ぼすと判断しています。ここに見解を発表し、現場の教職員および県民各層の討論を呼びかけるものです。

2 「再編」作業の現状
(1)再編・統合について
稲沢・一宮地区については、「稲沢・稲沢東・尾西の3校を統合し、農業科と普通科の生徒が相互に学ぶことができる新たな学校を、稲沢高校校地に2023年度開校する」としています。
津島・弥富地区については、「津島北と海翔を統合し、普通科・商業科・福祉科を併置した新たな学校を津島北高校校地に2025年度開校する」としています。

(2)新たなタイプの学校の設置
2023年度より2校を「新たなタイプの学校」とするとしています。第1に、犬山南高校を「犬山総合高校」と校名変更し、「社会を変え、時代を創る人を育て」「これからの社会に必要とされる人材」育成を目指すとされています。パンフレットでは「5つのプランから学びが選べる」として、リベラルアーツ(人文、自然)、ライフデザイン(保育、介護)、コミュニティビジネス(まちづくり、起業家精神)、IT(AI、IoT)、メディアデザイン(アバター、VR)が列挙されています。外部と連携し、「ふつうじゃ学べない専門的な学びでサポート」として、東芝デジタルソリューションズ、マイクロソフト、リクルート、DMMの社名が並んでいます。eスポーツなどの講座開設や学習支援するソフトの導入などで企業との連携が検討されています。
第2に、御津高校を「御津あおば高校」と校名変更します。現行の普通科と国際教養科を変更し、全日制単位制と昼間定時制を併置した普通科となります。「より多様な特性を有する生徒を幅広く受け入れ(中略)チェンジ・メーカーを育てる学校」をめざすとされています。昼間定時制は20名程度の募集とし、在籍途中で全日制からの異動を可能としました。不登校や長期療養、日本語指導が必要な生徒をも受け入れるインクルーシブな学校を目指すとあります。多様な生徒に対し、よりきめ細かな指導を行える体制のために、従来なかった「20名募集」としたことは注目されます。

(3)経済社会とリンクした実践的な商業教育へのリニューアル
「東海樟風」「春日井泉」「中川青和」という校名変更も含め、10校をリニューアルするとしています。この10校を4グループに分類していますが、魅力化・特色化の名の下、公立高校にあからさまな序列を設けるものとなっています。こうした「序列化」はこれまで公的には行われてこなかったものです。

(4) 「併設型中高一貫教育制度」の導入
中高一貫教育制度は、1999年度の国による制度創設以来、41都道府県の公立高等学校において導入され、「生徒の自主性や個性を伸ばし、社会性や人間性を育成するための特色ある教育」が各地ですすめられているとしています。4月6日には、明和・津島・半田・刈谷の4つの「第一次導入候補校 (附属中開設の目標2025年4月)」が発表され、「中高一貫教育導入部会」で検討が始まりました。
「部会」では、「チェンジ・メーカー」となりうる人材の育成や、「生徒の探究心に応える深い学び」を実現したいとの議論がされています。さらに「第二次導入候補校」をどう考えるかの議論も始まりました。7月25日に第2回「具体化検討委員会」が行われ、「第一次導入校」が翌26日に発表されました。なお9月議会に、中学校用施設等の整備に係る補正予算案が提出され、4校合計で約103.6億円が計上されています。

(5) 「新しい時代に対応した定時制・通信制教育」の在り方を検討
「定時制・通信制教育は、中学校の学び直しなど、様々な学習ニーズをもつ生徒の学びの場となっている」とし、主に昼間定時制の充実の方向が議論されています。1980年代ごろまで主流であった「働きながら学ぶ」ことを前提としたあり方からの転換を図り、一人一人の生徒に対するよりきめ細やかな指導や支援を重視していくことが論点となっています。

3 この「再編」に対する私たちの見解
(1)まずは少人数学級の実現を
教育の充実のためには、まず少人数学級の実現を先行すべきと考えます。愛知県(小学校)でも35人学級の導入が段階的に進められてはいますが、それを抜本的に充実させることが必要です。自治体独自措置により、さらに少人数学級を広げることは十分可能です。
エリート養成のための特定の学校だけに教職員配置を厚くするなど、財政的に格差をつけるのではなく全ての学校を対象にした施策をすすめるべきです。

(2)「人材育成」を目的とするのではなく、「人格の完成」をめざすべき
教育基本法の第一条は、「教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として…」とあります。教育は「人格の完成」をめざすべきです。しかし「構想」を貫く視点は、時代や社会の変化に対応できる「人材の育成」という考え方となっています。子どもを未来の主権者として育てるのではなく、変化する社会に適応できる「人材」を育成しようとしています。これは2006年の新教育基本法制定時から続いてきた財界の教育改革の要求に応えるものとなっています。
具体的には教育条件に格差を持ち込むものとなっています。財界の求める各種の労働力の水準と雇用形態に合わせて、高校教育を複線化するものとなっています。浮上している「中高一貫教育」の第一次導入校4校はいずれも旧制中学に源流をもつ伝統校であり、うち3校は、「スーパーサイエンスハイスクール」の実施校です。すべての子ども・青年に確かな学力と進路選択をする力を育てる施策ではなく、「チェンジ・メーカー」と称し早期エリート教育を押し進める施策となっています。

(3)「特色ある学校づくり」は何を目指しているのか
1995年5月に日経連は「新時代の『日本的経営』 ―挑戦すべき方向とその具体策」を出しました。そこには企業を超えた横断的労働市場を育成するために、①長期蓄積能力活用型、②高度専門能力活用型、③雇用柔軟型の三通りの労働力を確保し、人材の流動化に耐えうる「人材」を育成することが教育政策の課題とされていました。いわば三通りの「人材」育成のための学校教育体系の複線化が学校教育に持ち込まれることになったのです。(『いま、子ども・青年にどんな力を育てるか』 全教・子どもの「学力」に関する調査研究委員会 2002年)
このような「複線化」のまさに具体化として、今回の「構想」は具体化されようとしています。学ぶ目的・水準に個人差をつけ、特定のエリート養成のためのコースを別に設けています。そこには保護者・国民の「学校づくり」への参加という視点はありません。教職員には選ばれる「学校づくり」を押し付け、父母・国民には自己責任での「学校選択」を強いるものとなっています。

(4) 定時制・通信制教育の充実は求められている
現在、不登校経験者や外国人生徒の増加を念頭に定時制(特に昼間定時制)の充実の方向が議論されています。さまざまな事情から全日制には進めない生徒が一定数存在することは事実です。昼間定時制高校の新設や少人数教育はただちに着手すべきです。
しかし、他方で夜間定時制について縮小の議論については、表には出てきていませんが警戒が必要です。少ない学費で学ぶことのできる夜間定時制高校は、現在定員割れであるとしても、困難な事情のもとで学ぼうとする意欲を持つ若者に必要な学校です。

4 私たちが求める公立高校のありかた
(1)生徒・保護者・住民の願いに応える魅力ある公立高校の実現を
この4月、各校は「スクールポリシー」を公表しました。これらの作成過程は、教職員の民主的討議で自分たちのめざす学校づくりを討議するチャンスではありました。しかし「ブラック校則」や理不尽な指導の改善などもふくめ十分な討議がすすめられた学校は多くはありません。
上述したように「特色化」の名のもとに財界の求めるエリート教育などをすすめるのではなく、生徒の多様な要求にもこたえ得る学校をめざすべきです。特に専門科では、進学や資格・就職実績が重視されがちです。しかしそれだけに依存すれば専門学校との差がなくなります。魅力ある高校生活を営むこと自体が、その後の進路づくりに貢献するような「魅力づくり」を探究したいものです。

(2)「開かれた学校づくり」を
全国で「開かれた学校づくり」のとりくみがすすんでいます。そうした学校では生徒の自主活動の保障や主権者教育が大切にされています。8月26日、文科省の有識者会議は「生徒指導提要」の改定案を大筋了承しました。そこでは、初めて「子どもの権利条約」が書き込まれるとともに、子どもの意見表明権も記載されました。校則の制定にあたっては子どもの権利の視点が重要だとし、一度定めた校則も絶えず見直しが必要とも書かれています。学校づくりはトップダウンではなく、学びの主体である子どもたちと教職員のたえまない対話の中ですすんでいくべきものです。まずは、生徒・保護者・地域住民との意見交換から始めましょう。
家庭の経済力や発達障害など多様な背景をもつ生徒の入学が増えています。そのような生徒に寄り添うためにも教職員定数増が必要です。さらに保護者の経済負担のさらなる減額(実質的な無償化)も同時に求められます。

(3)「希望者全入」を展望して
全国的には公立高校の定員割れが進行しています。半数程度の公立高校が入学定員を満たしていないとの調査があります。こうした状況下では私学も含めた「希望者全入」を視野に入れた教育施策を求める必要があります。各校の競争の結果、定員割れが続くような高校を「自己責任論」のごとくつぶしていくような制度改正にしてはなりません。大学区制を解消し、生徒が地元の高校を安心して選び受検できる制度をめざすべきと考えます。「30人学級」など少人数学級を県独自でも実現するなど、教育予算の大幅増をかちとり、公立高校の新たな魅力を創造していきましょう。

以上