【憲法と教育を守る愛知の会】高校入試改革問題に関する見解

愛高教も参加している「憲法の理念を生かし、子どもと教育を守る愛知の会(憲法と教育を守る愛知の会)」は、10月8日に高校入試改革問題で「私たちの見解」を発表しました。 「私たちの見解(PDF)」はこちら

「憲法と教育を守る愛知の会」は、2002年12月9日に「憲法と教育基本法の理念を実現する愛知の会」として発足した市民団体です。
教育基本法が改悪された後の2007年3月17日に、現在の名称に改称して以降、基本方針に掲げた「改悪教育基本法が目指す新自由主義的な教育改革および国家主義的な教育改革の具体化に反対」するとともに「日本国憲法が求める平和と民主主義、個人の尊重を重視する教育の実現」・「1947年教育基本法および『子どもの権利条約』に基づいた教育の実現」をめざして活動をしています。

3月の公立高校の入試結果では、2600人超のかつてない欠員が生じました。夏にかけて入選協等の会議が重ねられ、昨秋に決まっていた「2023年の新入試」が具体化されました。
注目されるのは、19府県で行われているとされる「特色選抜」の新たな導入です。学ぶ意欲と主体性の高い多様な生徒を受け入れるためとされていますが、新たな中学現場での新たな競争を招くこととなり、受験競争の激化が危惧されます。
岐阜県では自己推薦による「特色化選抜」が2002年から実施されました。しかし、「7割の生徒が不合格を経験する」「入試期間が長期化し、中学校が落ちつかない」等の問題が噴出し、2012年に廃止されています。

今回の「見解」は、この問題が今後の公教育にあたえる影響などについて考察し、現場教職員および県民に問題点と課題を明らかにしたものです。抜粋して紹介します。

 

2021年10月8日

2023年度公立全日制高校の新入試制度について  私たちの見解

憲法の理念を生かし、子どもと教育を守る愛知の会
(憲法と教育を守る愛知の会)
共同代表  榊 達雄(名古屋大学名誉教授)
小林 武(沖縄大学客員教授)

1 県教委発表に至る経緯
(略)

2 新制度の特徴
(略)

3 新制度の問題点
(1)受験競争や中学校教育を改善できるか
一般試験の面接検査が各校の裁量となりました。このことでは、中学校の指導負担の軽減が期待できます。一方で、「早期選抜」が復活したことにより、中3の3学期の指導が難しくなります。現在は2月に卒業に向けた様々な行事や指導にとりくんでいますが、整理等が求められてしまいます。加えて「早期選抜」で学力検査が課されないことにより、学習から早期に離脱する生徒の増加も危惧されます。
「校内順位の決定方式」が5方式となったことにより、高校のさらなる序列化が危惧されます。「学検×2」を採用するであろう「トップ校」志望の生徒向けの受検学力向上の指導が中学でも塾でも過熱することでしょう。他方で「評定×2」「評定×1.5」の受検を意識した中学校の指導体制は継続することになります。従来からの「内申点競争」は解消されず、「内申軽視」のトップ校志望者とのさらなる矛盾を生じさせます。
今年度から私学が一歩先に「特色選抜」を導入します。公立の「特色選抜」でも部活成績が取り込まれることになれば、部活動の一層の過熱化が心配されます。
今回の制度変更の動機の一つとして「早く決めたい」という生徒と保護者の心理がありました。「早期選抜」と「1回受検」でそうしたニーズに一定応えることになりますが、大学区制度と複数志願が続くなかでは、受験競争や高校格差は解消されません。
(2)教職員の負担は改善されるか
「特色選抜」が加わり、入試業務はより複雑かつ神経を使うものとなります。「特色」をどう採点するかの基準づくりは各校に任されると思われますが、事前段階での県教委との擦り合わせも求められるのなら現場は混乱することでしょう。加えて、新設された「×2」の採用希望校に「指導」が入る可能性があります。建前は各校が判断し、申請するわけですが、県が目指す「特色化」にそぐわない学校が申請した場合には混乱が予想されます。
一般入試は1回受検となり志願者は半数程度に減少することでしょう。このこと自体は負担減ですが、採点基準の統一が求められる新方式となります。出題や採点方法が不明確な現状では現場の不安は大きなものがあります。
「特色選抜」は推薦不要ですが「推薦選抜」と同様な中学校の指導は継続されることでしょう。個々人ごとに様々な「ウリ」をアピールする必要があり、個に応じた指導は大変な業務になると推察されます。

4 私たちが求める公立高校のありかた
(1)今こそ、公立高校の民主化を
新制度では現行よりも校長裁量が増していることが注目されます。1989年当時と比べ管理的な学校運営は下火にはなっていますが、「トップダウン」で判断が強行されることを心配します。現在各校で、4月発表を目指して「スクールポリシー」の策定がすすめられています。これらの作成を通じて、「ブラック校則」や理不尽な指導の改善など図られるべきです。学校の「特色」や「魅力」をどうつくるかについて教職員間の十分な討議をすすめることで、生徒や保護者にとって「魅力ある特色」を探りましょう。同時に、「特色化」の名のもとに一部の生徒の希望にのみ応えるのではなく、どんな生徒の要求にもこたえ得る学校であることも求められます。特に専門科では、進学や資格・就職実績が重視されがちです。しかしそれだけに依存すれば専門学校との差がなくなります。魅力ある高校生活を営むこと自体が、その後の進路づくりに貢献するような「魅力づくり」を探究したいものです。
(2)「開かれた学校づくり」を
全国で「開かれた学校づくり」のとりくみがすすんでいます。そうした学校では生徒の自主活動の保障や主権者教育が大切にされています。生徒・保護者・地域住民との意見交換から始めましょう。家庭の経済力や発達障害など多様な背景をもつ生徒の入学が増えています。そのような生徒に寄り添うためにも教職員定数増が必要です。さらに保護者の経済負担のさらなる減額(実質的な無償化)も同時に求められます。
(3)「希望者全入」を展望して
全国的には公立高校の定員割れが進行しています。半数程度の公立高校が入学定員を満たしていないとの調査があります。こうした状況下では「希望者全入」を視野に入れた入試制度を求める必要があります。今回の改革は「特色選抜」の新設に代表されるように複線化と複雑化をすすめるものになっています。各校の競争の結果、定員割れが続くような高校を「自己責任論」のごとくつぶしていくような制度改正にしてはなりません。大学区制を解消し、生徒が地元の高校を安心して選び受検できる制度をめざすべきと考えます。「30人学級」など少人数学級を県独自でも実現するなど、教育予算の大幅増をかちとり、公立高校の新たな魅力を創造していきましょう。
以上